/ ホラー / 屁たれたちの挽歌 / 001 プロローグ

공유

屁たれたちの挽歌
屁たれたちの挽歌
작가: 栗須帳(くりす・とばり)

001 プロローグ

last update 게시일: 2026-03-07 18:00:24

―深夜。

煙草をくわえ、白い息を吐きながら。

男はモニターを見ていた。

モニターには、数万枚に及ぶ一人の男の写真データが、BGMと共に一枚ずつ映し出されていた。

彼の名は岩崎雄介、32歳。

数百年に渡って続いてきた、大阪市内の外れにたたずむ神社の一人息子である。

雄介の部屋には壁、天井と所構わず、モニターに映っている男の写真がびっしりと貼られていた。

その異様な空間の中、写真をみつめながら雄介は細い目を更に細め、満足気な笑みを浮かべていた。

* * *

雄介がおもむろに、携帯のスピーカーをONにして番号を入力した。

しばらく呼び出し音が続き、やがて男の声が聞こえてきた。

「はいもしもし」

雄介は何も言わない。

ただじっと耳をすまし、その声を聞いている。

「もしもし」

無言のまま電話を切ると、雄介は満足気な表情を浮かべ、再び白い息を吐いた。

* * *

写真を眺めながらベッドに横たわっていた雄介は、ふと喉の渇きを覚え起き上がった。

本堂に続く長い廊下を歩いていく。

ひんやりとした板の上を、素足でゆっくりと歩いていく。

窓から外を見ると、少し風が出ている様子だった。

枝が騒ぎ、葉の揺れる音が心なしか大きく感じられる。

そして。

いつも聞こえる虫の声が聞こえないのが、少し気にかかった。

その時だった。

「……」

本堂の方から、灯りが漏れているのに気がついた。

こんな時間に何を……雄介は好奇心にかられ、足をしのばせながら本堂の中を覗いた。

* * *

雄介の目に、白装束を身に纏い、大幣〈おおぬさ〉を振りかざし、一心不乱に呪を唱えている父、雄二の後姿が入ってきた。

父の前には、護摩〈ごま〉で焚かれた火が赤々と燃え盛っている。

父の向こうには、決して開けられる事のなかった観音開きの小さな祭壇が開けられていた。

子供の頃、一度その祭壇を開けようとして、父にひどく叱られた経験があった事を雄介は思い出した。

父は一体何をしているのだろう……雄介の目が祭壇に釘付けになった。

祭壇の中に祭られている御神体。

それは勾玉〈まがたま〉の形をした、真っ赤な水晶の様な物がついている首飾りだった。

生まれて初めてその御神体を目にした雄介の鼓動は高鳴り、喉が急激に渇いていった。

日ごろ温厚な父が大幣〈おおぬさ〉を振りかざし、鬼気迫る様子で一心に祈祷している。

その父の祈りが最高潮に達した瞬間だった。

幻覚……?

雄介がそう思うほど、一瞬の出来事だった。

護摩〈ごま〉で焚かれた炎がゆらめいたかと思うと、一気に立ち上ったのだ。

その炎が、何かを叫んでいる人の顔の様に見えた。

雄介は一瞬、体を貫かれたかの様な気持ちになった。

その感覚に恐怖し、目が見開かれた。

父は力尽きたかの様にうずくまり、肩で息をしている。

その異様な光景を前に、雄介の全身はじっとりとした汗に支配されていた。

雄介は震える足を奮い立たせ、その場から小走りに去っていった。

* * *

部屋に戻り、雄介は体を震わせながら布団に身を包んでいた。

しかし中々寝付く事が出来ない。

発泡酒と共に口にした精神安定剤も、今の雄介を落ち着かせることは出来なかった。

壁に貼られた男の写真を見つめ、動悸を抑えようとするが収まらない。

目を閉じると、あの炎で形作られた顔が浮かんでくる。

その幻像を打ち消そうとすればする程、鮮明に脳裏に浮かんできた。

雄介はあの炎に、恐怖の感情と共に、何かしら言い知れぬ安息感と力強さを感じていた。

否定すればする程、炎に魅了されている自分を感じた。

この震えは恐怖ではなく高揚なんだと、強く感じた。

やがていてもたってもいられなくなった雄介は、好奇心と惹かれる気持ちに背中を押されて起き上がり、再び本堂へと歩いていった。

* * *

父は既にいなかった。

広い本堂の中、小さな灯火を頼りに、雄介が恐る恐る祭壇に近付き、開き戸を開けた。

「……」

そこには先ほど見た、御神体が吊るされていた。

好奇心が彼を支配し、震える手でその御神体に触れようとする。

その時だった。

その御神体から、ひんやりとした妖気の様なものを感じ、雄介は慌てて手を引いた。

雄介が御神体を見つめる。

その真紅の勾玉〈まがたま〉は、自らが揺らめく様な妖しい光を発していた。

雄介は生唾を飲み込み、小さく息を吐いて御神体に触れた。

その時だった。

自分の中に何かが染み込んでくる様な感覚を雄介は覚えた。

―欲しい物をやろう―

一瞬、そんな声が聞こえた様な気がした。

雄介が驚いて辺りを見渡す。

しかし誰もいない。

本堂の中はひっそりと静まり返っていて、かすかに火のくすぶる音がしているだけだった。

雄介がもう一度、手にしたその御神体を見つめる。

―お前の欲しい物をやろう―

幻聴ではなかった。

御神体が自分に語りかけている。

雄介が確信を持った。

その真紅の勾玉〈まがたま〉は自らの意思を持っているかの様に、滑〈ぬめ〉る様に光を放っていた。

―手に入れてやる―

―手に入れてやろう!―

最早雄介はためらわなかった。

手に入れたいものがある。

たったひとつ、どうしても手に入れたい物がある。

静かにうなずいた雄介が、ゆっくりとその御神体を首にかけた。

その時。

雄介の体中に、言いようのない灼熱感が伝わってきた。

そして、まるで自分の細胞ひとつひとつが勝手に動き回っている様な、恍惚感にも似た刺激に支配された。

やがて雄介はがっくりとうなだれ、その恍惚感の中、意識がとぎれその場に崩れ落ちた。

* * *

どれくらい眠っていたのだろう。

しばらくして、ようやく妖しい眠りから覚めた雄介が目を開けると、そこには肩を震わせ自分を見下ろしている父、雄二がいた。

「ゆ、雄介……お前、何ということを……」

雄介が驚愕した。

しかしその心とは別に、強烈な衝動が体中に湧き上がってきた。

―殺せ!―

父の目に、雄介の姿が変貌していくのが映った。

それは最早我が子、雄介ではなかった。

勾玉〈まがたま〉が妖しげに光ったその時。

雄二が恐怖に目を見開いた。

이 작품을 무료로 읽으실 수 있습니다
QR 코드를 스캔하여 앱을 다운로드하세요

최신 챕터

  • 屁たれたちの挽歌   019 エピローグ

    半年後。戦いは終わった。数百万の犠牲を払った大阪に、少しずつ活気が戻りつつあった。事件の真相は当然、誰にも分からない。全てを理解しているのは、藤原と涼子だけ。そして二人が、それを口外する事はなかった。* * *徘徊していた数百万にも及ぶ石像たちは皆、元の姿に戻っていた。しかし坂口の言っていた、「首謀者を倒せば、呪いが解けて皆が助かる」と言う言葉は、残酷な答えとなって返っていた。確かに元の姿に戻りはしたが、脳味噌を排出した人々が再び蘇生する事はない。市内は数百万人の死体の山、ゴーストタウンと化していた。学者たちは頭を悩ませ、連日この惨劇を巡っての議論が続いた。だが誰一人として、答えにたどり着くものはいなかった。藤原は思っていた。(呪いからは解き放たれた……魂っちゅうもんがあるんやったら、みんな、安らかな眠りについた筈や……そうや、絶対そうや……)* * *雲ひとつない透き通る青空を、ベンチに座って見つめている藤原と涼子。藤原が涼子の頭を優しく撫でた。「お兄ちゃん、屁たれにだけはなりたくないね」涼

  • 屁たれたちの挽歌   018 決着

    爆発が起こった。衝撃で部屋が揺れる。「なるほど……健太郎さんにしては、なかなか格好いい最後だったようですね、ふはははははははっ!」「くっ……健っ……!」素早くマガジンチェンジを行い、藤原が雄介目掛けて発砲する。その藤原の体を、雄介の鋭い視線が容赦なく切り刻んでいく。* * *その時、爆発音に妖しい眠りから覚めた涼子の視界に、雄介と戦う藤原の姿が映った。「……お……お兄ちゃん……」涼子が体に巻かれたコードを外そうとあがく。幸いにもコードは緩く締められていて、何度か試みている内に外す事が出来た。―涼子の目に、床に転がる鉈が映った。涼子が鉈を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。「ふはははははははっ! 藤原君、そろそろお別れの時ですね! 僕を裏切った事、あの世で後悔してください!」涼子が鉈を振りかざし、雄介の後ろに立った。藤原は壁にもたれかかり、諦めきった表情で両腕をだらんと下ろした。「よりによって、屁たれのクソダコに殺られるとはな……」「死ねっ!」その時だった。「やああああああああっ!」

  • 屁たれたちの挽歌   017 健太郎に幸あれ

    雄介が拳を握り締め、わなわなと肩を震わせた。レースでよく見えないが、泣いている様に見えた。そしてしばらくすると天を仰ぎ、藤原への思いを断ち切る様に笑い出した。「あっはっはっはっ!」虚しい笑い声が、室内に響く。「分かりました……僕には……僕には友達なんかいなかったと言う事ですね……じゃあ僕は何ら遠慮する事なく、この力を持って世界の頂点に登ります……やはり頂点は一人なんですね……まずは健太郎さん、あなたです……あなたには最高の舞台を用意しましょう……直美さんっ!」「何……直美ちゃん、やと……」雄介の声にバスルームの扉が開き、中から直美がゆらりと姿を現した。「直美ちゃん……無事やったんかえっ!」「待て健」身を乗り出して叫ぶ健太郎を、藤原が制した。「よお見てみい、目が死んどる」「な、直美ちゃん……」「彼女はもう、僕の忠実な下僕です。彼女の能力は素晴らしい物です。石像にしてしまうには余りにも惜しい、そう思いましてね。彼女にはその姿のまま、僕の番犬になってもらったんです。さあ直美さん! まずは健太郎さんを殺して下さい!」その声に、直美の肩がピクリと動いた。&nbs

  • 屁たれたちの挽歌   016 衝撃の事実

    10分後。「ええ加減にさらさんかえこのボケッ!」健太郎が藤原の後頭部を張り倒した。「ごっ……!」衝撃で目から火を出した藤原が、思わずうなる。そして静かに、大きく深呼吸すると手を挙げ、二人に言った。「すまん、ちょっとタイムや……」ポケットから煙草を取り出し、くわえて火をつける。「ふううううぅっ……」白い息を吐き、眉間に皺を寄せ、天を仰ぐ。「……よし、もう大丈夫や……いわちゃき、いや、岩崎雄介やな、分かった……」煙草を床に捨て、踏み消した。「……そやけど、岩崎雄介……そんなやつ、俺知らんぞ。訳の分からん事ぬかしやがって……それも人の事、馴れ馴れしぃ呼びくさって」「正気に戻ったかえ。そやけどちょっと待てや、その話は後や。おえ屁たれ! 先に俺が質問するっ! お前がどないして、そんな訳の分からん能力を得たんか、まずはそっからや! さあ、答えたらんかえっ!」健太郎が雄介にショットガンを向けて吠えた。健太郎の問いに、思考が停止していた雄介もようやく我に帰った。「……い、いいでしょう&

  • 屁たれたちの挽歌   015 壊れた藤原

    銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。「藤原、目えつむれっ! やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった! 顔見たら石にされてまうぞっ!」健太郎が大声で叫んだ。「……分かった」藤原が静かにうなずき目をつむり、安眠マスクをしようとした。その時だった。「藤原君! 心配しなくていいよ! 君に危害を加える様な事は絶対にしない! する訳ないじゃない! さあ、目を開けて!」雄介の狂喜する声が響いた。「何を! 騙されるかえっ!」「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。「……」藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。彼の目に映ったもの。それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。「坂口さんも……やられたんか……」「お

  • 屁たれたちの挽歌   014 嗚呼、坂口さん!

    13階でドアが開いた。ショットガンを突き出しながら、健太郎が素早く左右に目を這わせた。坂口は十字架を天高く掲げ、健太郎に続く。その時、またあの声が聞こえてきた。「心配ありませんよ……ここに石像はいません……いるのは僕だけです……」「くっ……こんガキ、とことん挑発してけつかる……まあええ、行ったろやないかえっ!」健太郎が吠え、大股で藤原の部屋に向かった。声の主の言う通り、石像に遭遇する事無く、二人は藤原の部屋の前に立った。健太郎と坂口が顔を見合わせ、互いにうなずく。その時、玄関のドアが静かに開いた。「坂口さん、行きまっせ!」「分かった!」二人が同時に足を踏み入れる。「な……」健太郎が我が目を疑う。そこは既に、健太郎が知る藤原の家ではなくなっていた。バスルーム以外の壁が全てなくなっており、3LDKの部屋が大きな一室になっていた。そして至る所に、藤原の写真が所狭しと貼られていた。「な……なんじゃこの部屋は……藤原、藤原だらけやないか……あいつ、こないナルシストやったんかいな&hellip

더보기
좋은 소설을 무료로 찾아 읽어보세요
GoodNovel 앱에서 수많은 인기 소설을 무료로 즐기세요! 마음에 드는 작품을 다운로드하고, 언제 어디서나 편하게 읽을 수 있습니다
앱에서 작품을 무료로 읽어보세요
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status